なんだかこの風景には親近感が持てる。「なぁ、見事にからっぽだろ?会社もビルも壊れるとこんな風景になるんだ」ここは私の心のなかの部屋かもしれない。てっきり私は自分の心のなかにはゴミが大量に散乱していて、それが醜く腐っているんだと思っていた。けれど違うと思った。広くて、暗くて、白い部屋がそこにはある。窓からはピンクのネオンサインがチカチカ入ってくる。やがて雨の音が聞こえ始めた。春雨の音が広い空間に反響する。「ここで人が死んでたんだ」「へえ」「麻薬中毒者。太ったおばさんがキャミソール姿で死んでいた。死に場所を探していたんだろうな。このビルは死に場所には都合よかったのかな。俺が見つけたんだ。もう腐っていた。何日か経っていたから死体が膨らんでいた。今、お前が座っている場所だ」「そう。自殺?」「麻薬の大量摂取。オーバー・ドーズだ。死のうとしていたのか俺にはわからない」「わからないまま死んだのかな?」「かもな」「じゃあ、わからないまま幽霊になってまだここを彷徨っている?」「そうかも。幽霊か。お前、幽霊は怖くないのか?」「怖くない。だって生きているから苦しいんでしょ?苦しいから麻薬中毒になるんでしょ?幽霊になっても麻薬中毒は続くのかな?自殺する人は苦しみから解放されたいと思って死ぬわけでしょ?死んでからも苦しみや悩みが続くのならそれ、ちょっとひどくない?ひどいと思う」「きっと、続くんだよ。おばさんの幽霊はまだこのビルを歩いている。水を探している」「水?」「中毒者は水が大量に飲みたくなるんだ」「そっか。よくわかるね?もしかして毎晩ここで幽霊と交信しているの?幽霊マニア?」「俺?俺は世界と交信している。生も死も含めて。あるいは幽霊マニアかもしれない」「私はそのおばさんのことも笑えない。なんだか許せそうな気もする。麻薬中毒。転落した人生。