「第1回ドイツ国際美容外科学会」が開催された2004年7月、私は1週間のドイツ旅行に出かけた。この国際美容外科学会に参加するきっかけとなっだのは、ドイツ美容外科学会長のマング教授によって執筆された美容外科了一ユアルと出会ったことによる。美容外科に関するテキストは多数出版されているが、必ずしも的を射たものがあるわけではない。私は常々、重要とされるヴィジュアル資料を豊富に紹介した本を探していて、最も気に入った本がこのマング教授の著書だったのだ。このテキストは手術に関する手技を中心としてシンプルに編集され、実際の手術シーンのDVDも付いている。手術前に一覧参照すると格好のイメージトレーニングに役立つ。巻頭にマング教授のコメントがあり、世界各国から教授の運営するクリニックを訪れる医師が多数いることが記載されていた。私もぜひ見学したいと思い、早速マング教授にメールを送ったところ、快く承諾していただいた。では、「ドイツ美容外科学会」とはどのようなものなのだろうか?元来、耳鼻科医であったマング教授か中心となって12年前にドイツ形成外科学会、ドイツ口腔外科学会、ドイツ耳鼻咽喉科学会が共同で立ち上げたものである。彼らはあくまでも手術治療を行う美容外科にこだわっており、メスを使わないヒアルロン酸、ボトックス注射、レーザー治療などの治療とは区別をしている。これらのメスを使わないに医師たちが、その境界を超えてメスを使う領域に経験もなく入ってくることに警鐘を鳴らしている。この学会の目的も、そのような未経験な医師たちに対する教育や、しっかりとしたコンセンサス、基準を作ろうとしていることにある。手術を行うのであれば、これらの教育を受けた上で行う必要がある。日本においても同様なことが起こりつつあり、このようなガイドラインをもうけることは非常に重要なことであると考えた私は本学会に参加することにした。「豊胸手術」「わし鼻の手術」「脂肪吸引」そして……マング教授はドイツの南に位置する、ボーデン湖畔に近いリンダウという街にB乱enseeクリニックを築き、ドイツ国内外から患者を集めている。リンダウは小さな街で人口は数千人だ。この街はドイツ、スイス、オーストリアの国境近くに位置するため、私はスイス航空にてジュネーブに飛んだ。そこからコンパクトなプジョー409を借りて、東に位置するドイツに向かって進んだ。高速道路にはドイツ車やフランス車が目立ち、日本車はたまにホンダ、トヨタのコンパクトカーを見かける程度だ。ヨーロッパでは日本車の独壇場にさせない、という彼らの意図がうかがえる。実際、近年のヨーロッパ車の性能は日本車に劣らない。スイスの丘陵地帯は素晴らしくのどかだ。丘陵地帯の高原にはとんがり屋根の美しい家が散在し、牛たちが時を忘れて草を食んでいる。夏のスイスの空はあくまで澄み切ってアルプスの少女ハイジのイメージそのもの。自家風力発電の羽塔が至るところにある。風景がこんな美しくに見えるのは、ヨーロッパが風力発電を積極的に取り入れて、環境のクリーン化に力を注いでいるせいであろう。1時間も走ると、プジョーの操作も次第に慣れ、おおかたの車を抜かし始めた。ドイツ国境もノーチェックで通過した。ユーロのおかげでヨーロッパの国がほぽ一つにまとまっているからであろうか。国境の検問につきものの、ピリピリした緊張感はなかった。マング教授のクリニックはヨーロッパ家具が置かれ、質素であるけれども、無駄がなく、小奇麗だった。言葉はドイツ語で話されるので、全く分からず苦労した。もう少し英語が浸透していると思ったが、かつての強国として自分たちの文化に誇りを持っているせいか、英語がわかっていても、敢えてドイツ語を使う徹底ぶりが印象的だ。初日は、「豊胸手術」を見学することとなった。各国から多くの医師たちが見学に来ているため、手術室で見学することはできない。ライブサージエリーといって、手術室で実際に行っている状況を生で、隣の部屋にいる私たち医師にビデオで見せるのだ。この方がズームで見られるので、手術室で覗き込むより、よく観察することができる。次の日は「わし鼻の手術」、その次の日は「脂肪吸引」とライブサージエリーが続いた。日本でも頻繁に行われている治療ではあるが、その治療過程と結果が微妙に違うのである。その違いの中に、よりよい治療を行うためのヒントが隠されている。相変わらず、説明の言語は全てドイツ語、何を言っているのかまったく分からず、手術シーンにかぶりつくしかなかった。これでも、大学時代の第二語学はドイツ語を選択したのだ。でも、いつも成績はA、B、Cの中のC。とんでもなく不勉強で、そのツケが今ごろになってやってくるとは。