地獄への入り口

2011.04.12

母と電話で話したことを思い出した。「どう考えたって高すぎるよ。だって本当に痩せるの?もとに戻るかもしれないじゃない。だからお母さんは反対よ。それにね、そういううまいことを言って、ローンを組ませるところだってあるっていうじゃないの」一人では決められない私は、母に電話をかけたのだ。母は猛反対だった。しかし反対されると、最初から分かっていた気がする。もし以前の私が反対の立場で家族の誰かがそう言い出したとしたら、やはり反対したと思う。「甘い言葉には落とし穴がある」と。しかし今の私は、「他は知らないけどエステサロンなら痩せられるわよ」と思いはじめていた。「ローンを組むって、大変なことなのよ!」母は電話を切る間際にも、またそう言った。それは分かっている。分かっているのに私は上の空だった。実はエステに対して半信半疑だったのに、「エステはすごい」と思ってしまったのだ。それは痩せる痩せないの問題ではなく、客に対する接客態度のことだった。あの店長の自信に満ちあふれた態度は私を魅了し、「私に任せてください」「一緒に頑張りましょう」という言葉は私の心を動かした。何年も私は、病的な痩せ願望に苛まれ、暴食と下剤乱用を繰り返す生活の中で、誰にもそのことを理解されず、孤独感に浸らなければならなかった。そんな私に店長の言葉が、響かないはずはなかった。だから私は決められないとは思いながらも、すっかりその気になっていた。男性なら、大金を支払ってまで美しくなりたいと思う人は少ないだろう。そういう女性が目の前にいたとしたら、自己満足に過ぎない、ただの馬鹿だと思うかもしれない。しかし男性にとっては大したことがなくても、女性はみな痩身願望を持っている。しかも「痩せているのが美」という価値観は、今や女性の社会的通念になっている。それは痩せていなければ価値がないような、強迫的で矛盾した価値観なのだ。それに合格しようとしている女性は、おそらく大金を払ってまで努力しようとするのではないだろうか。男性にはそういう価値観がないのだから、その努力の意味が理解できないのは当然なのかもしれない。しかし理解はしなくても、彼氏は反対しないとは思う。自分で支払えるのなら、文句は言わないはずだ。でも食事の問題は、彼の協力がなければ難しい。私はすっかりエステサロンに通う気になって、そんなことばかりを考えていた。このエステサロンとの衝撃的な出会いが、地獄への入り口だった。しかし私はまだそれに気づいてはいなかった。
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