医学部を目指す一浪の予備校生

2011.09.01

しとしと雨が降る六月のある日の午後、O君はおずおずとした様子でカウンセリングルームを訪れた。顔は青白く眼の下に大きな隈がある。丁寧に頭を下げて席についたが、テーブルの上で組まれた手が小刻みに震えていた。「受験とは関係がないのですが……」O君はそう切り出したきり、なかなか話しだす様子もない。「どんな話でも構いませんよ」と、カウンセラーがうながすと、「……何だか自分が怖いんです」と答え、それからは堰を切ったように一気に話しはじめた。O君は医学部を目指す一浪の予備校生である。校内テストでもまずまずの成績で授業にも皆勤である。予備校生活で表面に現れた問題はなさそうだ。しかし、目の前の彼は樵悴しきった様子だった。「家にいると、何かしでかしそうで……」と声を震わせる。そして、「刃物とかを見ると、それで父を、刺してしまいそうなんです」というのだ。ただごとではない様子に緊張を覚え、カウンセラーは先をうながした。医歯薬系大学に勤務する父親は、厳格で教育熱心だった。一人っ子のO君にかける期待は大きかったようだ。定期テストでの失敗に手を上げて怒るということもあったようだ。O君は父親の期待に応えるべく、かなり真面目に勉強もしたし彼なりの自信もプライドもあったのだという。「これまでは……、勉強はまあまあできたほうだと思います。クラス委員もやらされましたし」O君は少し照れながらいった。でも、負けず嫌いで、よくいう「キレる」タイプだったそうだ。友だちとぶつかったり、悔しいことがあると、教室で泣きながら暴れたりもしたようだ。